· 

市場を把握するということ② セールス現場視点

1回では主に本社サイド/マーケティング部門での市場把握について記載しました。

2回は、セールス現場での市場把握について、次の3つのポイントをお話しします。

 

1. IQVIA社の売り上げデータの活用

2. 地域データの探索と活用

3. 医療機関での市場把握


1. IQVIA社の売り上げデータの活用

 

多くの製薬会社のMR/営業担当者は、本社からIQVIA社が提供している売上データを活用しています。

売上データを、内服薬の場合は錠数(注射薬はバイアル数など)として算出し、その後 患者数を算出します。

具体的には、たとえば売上高が3か月のデータの場合、売上高を1日薬価(公定価格)でわり、さらに90日(3か月間)でわると、1日当たりの錠数=患者数が出てきます。

複数の処方規格(例えば5㎎、10㎎、20㎎錠など)がある場合は、最も汎用されている規格の薬価を用いるか、本社が用いている1日平均薬価を用います。

3か月フルに服用されていることが疑わしければ、90日間を短くして算出することもあります。

この計算により、全国や地域の該当薬剤を服用している患者数の概要が把握できます。自社製品、競合製品を全て同じ方法で算出して合計すれば、地域の該当疾病領域の薬剤を服用している大まかな総患者数が算出できることになります。

ただし、内服薬でも、抗がん剤でも2剤や3剤併用されている患者さんがいるので、2剤以上の併用率が50%とすると、総患者数は総合計の75%になるなどの注意が必要です。

総患者数がわかれば、自社製品の患者さんシェアがわかります。製品特性を考えて、最大限でどれくらいのシェアが取れるかを考えれば、実現したい最大の患者数がわかります。

その最大の患者数に向けて、個々のドクターに提案活動を実施していきます。個々のドクターの市場把握については3でお話しします。

 

少なくとも年に2回は、該当疾病領域全体の総患者数と自社・競合分析を行っていました。

またエクセルを用いて、売上データを入れると、患者数が直ちに計算できるようにしていました。

 

2. 地域データの探索と活用

 

第1回でお話しした厚生労働省のデータは都道府県別に出ていますので、都道府県単位の市場把握に用いることができます。

特定疾病は都道府県単位で出ています。

都道府県のサイトを探せば、容易に市町村別の年齢階級別人口が見つけられます。生活習慣病や肝臓疾患などの疾病について掲載している都道府県もあります。生活習慣病検診やがん検診についての記載も見つけられます。

また、救急搬送の患者さんの分類も入手可能なところがあります。消化管出血の搬送、心筋梗塞や脳血管障害の搬送などのデータがあり、地域医療の課題をドクターと共有し、より良い医療提供のために製薬会社として出来ることを話していました。

営業所長やMR(医薬情報担当者:製薬の営業担当者)が自ら調べることができるデータが沢山あり、地域の医療課題解決のために役立つ活動につなげることができます。

 

地区データはあくまでエリアのデータなので、MRは医療機関毎、医師毎の患者数を把握する活動を行います。

MRはルートセールスであり、担当エリアを毎日のように訪問してしているので、高い意識を持って活動すれば、かなり正確な数を把握できるようになります。足で情報を稼ぐことができます。

現在は、本社からのデータだけで自ら調べるMRさんが少なくなっていると聞くのは残念なことです。

 

3. 医療機関での市場把握

 

私が支店長としてクリニックを担当者と同行しますと、1日の外来数や総患者数を担当者に聴くことがあります。

それは、訪問した時点で、ヒントとなる情報があるからです。

また、病院でも外来担当医の総患者数をたずねます。

 

クリニックでは、未だカルテ棚があるところがあります。そうすると1棚に入っているカルテの枚数がわかり、棚の数をかけると総患者数がわかります。1棚に20名が入っていて、棚の数が30あれば、600名の総患者数がいることになります。しかしインフルエンザなどの急性疾患の時のみの患者さんもいらっしゃるので、定期的に通っているのは50%とすると300名いることになります。

内科であれば、第1回に書いたように、高血圧50%として150名、高脂血症30%で90名、糖尿病25%で75名、睡眠障害30%で90名とおおよその患者数を推定することができます。この情報を頭に描き、医師に質問してより正確に把握していきます。

 

病院の外来では、ドクターに1時間あたり何名診察されているのかをうかがいます。そして「外来は遅くまで大変ですね」と話しながら、「外来は朝9時から午後3時までですね、食事休憩は20分くらいですか」とうかがっていきます。仮に1時間で6名診察され、3時までの6時間では36名、休憩分2名を除くと34名になります。週に2回外来があると、2回分で68名。診察が1ヶ月単位だとするとその4倍で272名の外来患者数となります。

内科であれば内科の疾患罹患率の割合を適用すれば、おおよその患者数がわかりますね。

 

この患者数を頭に入れて、次のステップである、医薬品の単剤の使用患者数、2剤以上の患者数、重症度別患者数、年齢別患者数などをヒアリングしていきます。年齢階層はヒアリングしなくても外来に座っていたり、都道府県や市町村のデータからある程度把握できる場合があります。

 

がんであっても外来患者数を把握します。また、病床数とドクターの専門で把握しようと心がけます。

 

また、内科と外科のカンファレンスの情報や、手術表や入院担当表、検査の日や1日あたりの実施数など、できるだけ把握しようと試みます。

最近はMRの医療機関内の立ち入り規制があり、情報入手は困難になってきました。

 

昔話で恐縮ですが、私は入社1年目から2年目にかけて、当時の上司の指導もあり、担当していた大学病院の手術表や入院患者表・検査予定表(当時も患者名はなく手術名や疾患名が記載され個人情報は保護されていました)を書き写し、どのような疾患や検査が多いのか、どのドクターが担当しているのか、を集計していました。そして、疾患毎の投薬日数や、処方を決めるドクターは誰かを聞き取ろうと努めていました。

抗生物質がメイン商品だった時は、どの病棟にどのような細菌が出ているかを把握しようとしていました。

季節変動がありますが、3ヶ月も続けるとおおよその市場を把握できます。

 

話を戻します。

 

調剤薬局にも訪問して、自社品の安全性の確認を中心に行うなかで、在庫の状況や処方状況の変化をうかがいます。

とくに新薬の1症例目、2症例目の処方は出来るだけ早く入手して、ドクターを訪問し、詳しい情報をうかがいます。何を期待してご使用いただいたかを把握すること、また安全性情報の再度の提供が重要と考え、活動していました。

 

医療用医薬品の営業担当者(通称MSさん)からの情報も大変役立ちますね。病院ならびに調剤薬局の自社および競合製品の納入や在庫の情報、クリニックの様々な情報を得ることができます。MSさんと連絡を取らないMRさんが増えていますが、情報をたくさんお持ちのMSさんと連絡を密に取れるようにすることも重要な仕事の一つと考えて活動してみてはどうかと考えます。情報を持っていても直ちに教えてくれるようになるとは限りませんが。 

 

基礎的な情報となる患者数について概略を把握し、ドクターとの面談では、より処方のきっかけになる話題に絞っていきます。困っていることや理想の状態などを尋ねて、潜在的なニーズの気づきを促すことに努めます。

製薬会社の有する製品が、本当に患者さん及び医療者にとって有益となるところに焦点を当て、MRさんが質問していく形が素晴らしいと考えています。

「発売直後から、○○疾患の第一選択に」という理想のマーケティング方針を掲げ、その活動を営業に強いている事例も見てきましたが、製品の本来の価値が発揮されるところをMR・マーケティングがドクターとともに発見し、普及していく活動が望ましいと考えています。

 

Kiku塾では、製品が医療者にとって有益になるところを見出すワークショップや、質問力の向上、期待の把握の重要性などのワークショップを実施しています。

製薬会社の本社サイドでは、情報社会の進展と営業担当者の活動制限でMRさんの価値が下がってきているように思われているかもしれませんが、医療用医薬品の適正な普及と、適切な患者さんにいち早くご使用いただくためには、医療の課題を把握し医療者に寄り添うことのできるMRさんが必要で、MRさんがその価値を高めていくことを支援しています。

テーマ毎にご案内していきますので、ご期待ください。